大判例

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名古屋高等裁判所 昭和53年(ラ)2号 決定

抗告人

岐阜信用金庫

右代表者

安田松男

右代理人

東浦菊夫

古田友三

主文

原決定を取消す。

本件を岐阜地方裁判所に差戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙即時抗告申立書及び抗告理由書(各写)に記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

二まず、記録によると、抗告人は昭和五二年一一月三〇日、越智功所有の別紙不動産目録記載の各土地、建物につき昭和五〇年五月一六日設定契約、同月一七日登記、極度額金一、〇〇〇万円及び同月三〇日設定契約、同月三一日登記、極度額金二、〇〇〇万円の本件各根抵当権に基づいて任意競売の申立をしたところ、原裁判所は、右各不動産のうち一ないし五の各土地及び六の建物について昭和五二年一二月五日競売手続開始決定をしたが、そのうち七の建物については担保権の疎明がなく、また、民法三八九条の場合にも該当しないとして、同日右競売申立を却下したことが明らかである。

抗告人は、右一部申立却下の決定に対し、右七の建物については根抵当権を設定していないけれども、右民法三八九条を適用ないし類推適用して競売権を認めるべきであると主張し、原判断を争うので、以下この点について考察する。

記録によれば、本件各根抵当権設定当時別紙不動産目録記載の一ないし七の不動産のうち一ないし五の各土地と六の建物が存在し、そのうち一・二の各土地は小川大二の所有、同三・四・五の各土地は右小川大二及び小川久美子、小川洋子(後に「北島」と改姓)、小川正の四名の共有(持分各四分の一)、同六の建物は小川正の所有であり、これら物件所有者が、前記のとおり昭和五〇年五月一六日と同月三〇日の二回にわたり、抗告人と株式会社三永鉄工(代表者小川大二)との間の各信用金庫取引契約に基づく債務を担保するため、それぞれその所有ないし共有の右各土地、建物につき右債務者株式会社三永鉄工のため債権者である抗告人に対し本件各根抵当権を設定し、その各翌日にその旨登記をしたこと(なお、他の債権者による後順位の根抵当権、抵当権の設定登記もある。)、前記小川大二は、その後昭和五〇年八月三〇日前記目録三の土地(一九五〇番一雑種地五九九平方メートル)の地上と思われる部分に同目録七の建物(一九五〇番地一所在、鉄骨造平家建工場437.22平方メートル)を築造し、昭和五一年三月二九日表示登記をしたあと、同月三〇日受付をもつて同人所有名義の保存登記をしたこと(なお、この建物についてもその後同年四月八日受付、同月二六日受付をもつてなされた他の債権者の各根抵当権設定登記等がある。)、そして以上の各土地、建物はすべて同年六月一〇日の売買によつて越智功に譲渡され、同月一二日その旨の所有権移転登記がなされていることが認められる。

右の事実関係を前提にすると、前記三の土地についての本件各根抵当権はその共有者である小川大二ら四名によつて昭和五〇年五月一六日及び三〇日に各設定され、その後同年八月三〇日右共有者の一人小川大二がその地上に本件七の建物を築造してその所有者となり、その後更に右土地、建物は他の共同担保物件とともに昭和五一年六月一〇日第三者である越智功に譲渡されて、同一人の所有に帰属する関係になつたのであるが、民法三八九条の適用においては、土地の根抵当権設定者の一人とその後に建物を築造した建物所有者とは同一であつても、他に共同の根抵当権設定者がある点で土地の根抵当権設定者と建物所有者とが全く同一であるとはいえず、同条の要件に即該当するとはいえない。しかし、同条が土地(更地)の抵当権者にその後に築造された建物の競売権(一括競売権)を与えた趣旨は、本来土地の抵当権実行による競売によつて取毀又は収去を余儀なくされる運命にある右地上建物を、土地とともに競売することによつて現存建物相応の代価を得させ、右建物所有者(土地の抵当権設定者)の損害を最少限にとどめようとするほか、このような方法の競売によつて競買人を得易くし、その実効を挙げようとするところにあるものと解される。してみると、土地(更地)の共有者全員が同時にその土地の共有持分に抵当権を設定し、そのうちの一人が後にその地上に建物を築造した場合に、その土地の抵当権者に建物の競売権を認めることは、当該建物所有者(土地共有者の一人)にとつて何ら支障がないばかりでなく、むしろ利益であるのが一般であり、また、他の共有者にとつても、同様その共有持分に抵当権を設定していて当然その土地の競売を甘受しなければならない立場にある(仮に、後に築造された建物のため敷地利用の契約を結び、対価を得ている関係があつたとしても、右契約関係は競売によつて覆滅されることになる。)のであるから、これまた不利益を蒙ることもないというべきであり、従つて、右のような場合についても、前記法条の趣旨に照らし、同条を拡張解釈して、土地の抵当権者に地上建物の競売権を付与するのが相当であると解する。

次に、本件において、前記目録三の土地とその地上の同七の建物とが後日同一の第三者の所有に移つており、建物について右所有権移転に先立つ他の債権者の根抵当権が設定されていることは前示のとおりであるが、右建物の一括競売権は、その築造前に設定された土地(更地)の抵当権に対する法律上の効果として、当該抵当権者に認められた権利であるから、右権利を行使するか否かは当該抵当権者の選択にまかされるとしても、その権利そのものは右築造建物に対するその後における第三者の権利取得(所有権、抵当権等)によつて消長を来たすことはないと解すべきであり、この点でも抗告人の右建物競売権の行使を妨げる理由はない。

三よつて、別紙不動産目録七の建物に対する本件競売の申立を却下した原決定は相当でないから、これを取消し、本件においてはなお右建物の所在、土地との位置関係等について更に審理し、確定する必要があるから、本件を執行裁判所である原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(村上悦雄 深田源次 上野精)

【抗告の趣旨】

原決定を取消す。

本件競売を認める。

との裁判を求める。

【抗告の理由】

本件は、民法第三八九条に該当又は類推適用すべきであつて、これを許さない原決定には事実誤認法律適用の誤りがある。

一、本件債権者は、昭和五二年一一月三〇日、原審裁判所に対して別紙不動産目録番号一〜六記載不動産の抵当権の実行による競売を請求すると同時に、民法第三八九条に基づき、別紙不動産目録番号七記載の本件建物の競売を請求した。

ところが、原審裁判所は昭和五二年一二月五日、別紙不動産目録番号一〜六記載不動産については不動産競売手続開始決定をなしたが、本件建物については民法第三八九条の場合に該当しないとして競売の請求を却下した。

二、本件建物は、別紙不動産目録番号三記載の土地(以下抵当土地という)上の建物であり、本件債権者が抵当土地に抵当権の設定を受けた後に抵当権設定者によつて築造されたものであつて、その後、抵当土地と共に抵当権設定者から本件所有者に譲渡された。

三、民法第三八九条が適用されるためには、(イ)抵当権設定当時に土地の上に建物が存在しないことを要し、(ロ)建物は抵当権設定者が築造し、(ハ)そしてそれが抵当権設定者の所有にあることを要すると解するのが判例、通説である。

ただし、民法第三八九条の規定には(ハ)の要件は明記されていない。

なるほど本件建物だけを見れば競売請求の当時、本件建物はすでに抵当権設定者から本件所有者に譲渡されてしまつているのだから(ハ)の要件を欠き、原審裁判所のように民法第三八九条の場合に該当しないと判断することもできよう。

しかし、本件建物は、その敷地である抵当土地と共に本件所有者に譲渡されたという事実を見逃してはならない。なぜなら本件所有者は抵当権設定者から譲り受けた抵当土地については抵当権設定者に準ずる立場にあり、又、本件建物と共に抵当土地を競売に付される前所有者(抵当権設定者)の法的地位を承継していると解される。

更に、本件建物が抵当権設定者から抵当土地を譲り受けた本件所有者によつて築造され、その所有にあるものであれば、民法第三八九条が適用もしくは準用されることを思うと本件のごとく本件債権者が抵当土地に抵当権の設定を受けた後、抵当権設定者が本件建物を築造し、その後本件建物と抵当土地を一括して本件所有者に譲渡し、そのいずれもが本件所有者の所有にある場合も民法第三八九条の場合に該当すると解すべきだからである。

四、次に見逃してはならない事実は、本件所有者は本件建物に第三者のために抵当権を設定したという事実である。

仮に本件建物に対する競売請求が認められないとすると本件建物は常に収去されねばならず、かくては、民法第三八九条が建物の経済的価値を認めこれが収去ではなくて一括競売(建物の存続)を目的としているのを没却しているのみならず、本件所有者から抵当権の設定を受けた第三者は、本件建物から被担保債権の弁済が受けることができないばかりか、本件所有者も本件建物を失つたうえ、第三者に対する被担保債務も、担保提供した本件建物から弁済することができないということになり、両者ともに担保の取得、提供にかけた期待に反して大きな不利益を蒙ることになる。また、本件債権者が本件建物の敷地である抵当土地のみを競売するのでは、経験上抵当土地が適正な価額で競落されることはまずないことを考慮すると、本件債権者も当初の期待に反して大きな不利益を蒙ることになる。

五、そうすると、本件建物に利害関係を有する当事者間においては、本件建物はその敷地である抵当土地と共に一括して処分されるべきとの期待(一歩進めていえば黙示の了解)があると言うべく、本件のごとく本件債権者が抵当土地に抵当権の設定を受けた後、抵当権設定者が本件建物を築造し、その後本件建物と抵当土地を一括して譲渡し、さらに本件所有者が本件建物に第三者のために抵当権を設定した場合には、民法第三八九条の規定が適用もしくは準用されると解すべきである。(判例コンメンタールⅢ 担保物権法 我妻栄編四五七頁参照)

不動産目録〈省略〉

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